明治農法は「資源多投型」の農業であった。もちろんこの場合の「資源」とは経済学的な意味の資源であって、天然資源ではない。資金とか技術とか労働力とか言った、生産に必要とされるあらゆる材料や能力のことである。明治農法ではまず第1に、完全な乾田を作るために田んぼはフラット(なおかつやや傾斜気味)に造らねばならなかった。さもなければ水を抜いたときに水たまりができて、そこから害虫や病気が流行ったりする。だから...
第5章、小作争議の西・東記事一覧
地租改正によって、それまで小作であった農民は、自分の農地を手に入れた。ところが農地を持つと言うことは、税金を納めねばならないと言うことである。今まで地主に、作ったモノを上納しておれば済んでいたものが、市場動向などに敏感になったり、商品作物作りに新たに挑まなければならなくなった。ところがそういうのが面倒な農民は自分の土地を手放し、小作に逆戻りしたり、あるいは街へ出て、工場労働者として働きだした。もち...
江戸時代までの自給自足的ムラ農業の崩壊と農法の進歩は、ムラに住む農民の意識にも大きな変革をもたらした。そして国民学校などの教育の義務化や、普通選挙実施(大正14年)などによる庶民の地位の向上もそれに拍車をかけた。あちこちのムラでは時代の変化や意識の変化に伴い「農家小組合」と呼ばれる協同組合が結成され、共同作業や共同購入、そして農産物の共同販売や金融面での協力が積極的に始まった。これらの農家の運動は...
ムラで農業をやるより、街で働く方が収入が多くなってしまった。その原因を考えた結果、農民が思いついたのが、小作料であった。「やっぱりちょっと小作料が高すぎるんじゃないか?ワシらがいくら働いても地主さんに払う小作料が高けりゃ手元に金が残るはずも無い。確かに土地を借りて小作しているわけだから小作料を払うのは仕方がないにしても、儲けを全部持ってイカレたらたまらん」だがムラの中の地主にそれは言いにくい。ムラ...
1920年代の小作争議は岐阜・愛知での争議を嚆矢とし、主に大阪や兵庫で大々的に繰り広げられた。その争議の原因は都市の近代化や産業化にともなって発生した農工間格差を農民が自覚したためであり、その原因を高率の小作料と結びつけた結果の「条件改善運動」であった。運動の矛先は大規模な「不在地主」に向けられ、そしてその結果、小作料は実に二割前後も「値下げ」された。もちろんその背後には、都市の産業が発達したため...
インドネシアの話や日本の明治30年代の話のところでも書いたが、「ある地域が文明化し生産力が増大すると人口が爆発する」のである。世の中が少し明るくなりそして物資が豊富になると、人間に限らず生命というのは大繁殖を始めるのだ。それはもちろん何も東北地方に限った話ではないが、しかし関東や近畿と比べて東北地方には大きなタイム・ラグ(時間的な遅れ)があった。そしてそれは関東や近畿の文明化とは違い、非常に偏った...
1929年、ニューヨークの証券取引所で株価の大暴落が起こった。「世界恐慌」である。第一次世界大戦後のヨーロッパへの物資の輸出によって急速にのびたアメリカ経済は、このバブルの崩壊でいっぺんにペシャンコになった。マンハッタンの摩天楼群(背の高いビル)のいくつかは建設が中途のまま放棄され、そしてスラム化した。その影響はドミノ倒しのように世界中に広まり、対アメリカ貿易で外貨を稼いでいた日本経済にも大きな影...
だが前にも述べたように、東北の農民人口は既に過剰な状態にあった。おまけに恐慌で工場が閉鎖され働き場を失った労働者もどんどん帰農していたから、農家一戸あたりの耕作面積もギリギリまで減少していた。つまり東北の小作人は地主に土地を返すともう生きていけないギリギリの状況にまで追い込まれていてたから、地主の土地返還要求には応じられなかった。お陰で小作料の滞納は山積みになるし、滞納していると人間関係もギクシャ...
1929年のニューヨークの株価暴落をキッカケに始まった「世界恐慌」と「農業恐慌」は、軍事力増強のための重化学工業への投資によって、ようやく沈静化した。娘を売ったり奉公に出したりする東北の農家も減り、農家の生活も落ち着いた。だがそれまでの軽工業での出稼ぎの主役は主に「女性」であったのに対し、昭和初期の出稼ぎは農家の働き手である「男性」であった。つまり新しい就業機会というのは鉄砲を作ったり戦車を作った...
だがしかし1937年の日中戦争勃発を境に、暗雲が漂い始めた。朝鮮・台湾ともに米の生産量が減少し、そしてまた米不足が始まった。だから政府は慌てて食糧増産計画を決定し、国民を飢えさせず、かつ、戦争を遂行できるだけの食糧を大量生産しようと試みたのだが、まるで上手く事は運ばなかった。というのもこの頃にはもう農家は多様化し、地主や小作や兼業農家といった様々な形態で農業が行われ、以前のように「ムラぐるみ」では...





